東京を中心とする首都圏への人口流入が加速し、「東京一極集中」の傾向が強まっています。この現象は、コロナ禍による一時的な人口移動の停滞を経て、規制緩和後さらに顕著になっています。一方で、地方では、少子高齢化による人口減少と若年層の流出により、地域社会の存続が危機に瀕しています。特に介護・看護などのエッセンシャルワーカーの確保が深刻な課題となっています。そこで、北海道を拠点とする当社の経験から、こうした地方特有の課題とその可能性について、具体的な事例を交えながら考察していきます。
本コラムは読売新聞(2025年1月31日)の記事をもとに作成しています。
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いまさら聞けない東京一極集中の実態
総務省の人口移動報告によれば、東京都の転入超過は約8万人に達し、コロナ禍前の水準に迫っています。特に、東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)全体では13万人を超える転入超過となり、地方からの人口流出が続いています。
なお、コロナ禍で一時的に緩和したこの傾向は、収束後に再び加速しています。大学進学、就職、転勤など、人生の転機において、経済・文化の中心である東京圏を選択する若者が依然として多いためです。
この状況は地方の労働力不足を深刻化させ、とりわけ介護や医療などのエッセンシャルワーキング分野において、大きな課題となっています。
地方の少子高齢化と人材流出の連鎖
一方で、地方における少子高齢化は都市部を上回るスピードで進行しています。特に介護を必要とする高齢者の増加が顕著です。そのため、若年層や現役世代の流出が続いており、地域の医療・福祉体制の維持が危ぶまれています。
特に、地方では高収入を得られる産業が限られ、若者の就職先の選択肢も少ないです。そのため、都市部への移住を選ぶ傾向が強まっています。この人材流出は、地域コミュニティの機能低下を招きます。さらなる人口減少につながる悪循環を生んでいます。
豊かな自然や文化資源など、地方ならではの魅力と可能性を秘めています。しかし、潜在力を活かす前に人材が流出してしまうのが現状です。結果として、こうした状況が少子高齢化をさらに加速させる要因になっています。
エッセンシャルワーキング業界の厳しい現実
介護、看護、保育などの地域を支えるエッセンシャルワーキング業界では深刻な人材不足に直面しています。首都圏の高賃金や充実した都市機能に惹かれて若い人材が流出しています。一方で、地方の事業者は人手不足の解消に苦心しています。
さらに、インバウンド需要の回復により観光・宿泊業界も活発な採用活動を展開しています。特に、介護事業所は給与や待遇面で両業界との競争を強いられています。さらに業界特有のハードワークやキャリアパスの不明確さもあり、人材確保を一層困難にしています。
このように、地方の少子高齢化に加え、都市部や他業界との人材獲得競争の激化があります。そのため、エッセンシャルワーカーの確保は一段と厳しさを増しています。
北海道における介護事業者の独自の視点
当社は札幌で介護事業を展開しています。札幌圏への人口集中に加え、首都圏への人材流出も続いています。特に道内の過疎地域では、深刻な人材不足に直面しています。
北海道の特徴的な産業である農業や酪農に加え、最近はインバウンド需要の回復により観光業界が活況を呈しています。その結果、観光関連企業による積極的な採用活動が展開されています。これにより地域の福祉人材の確保がますます困難になっています。
このように、少子高齢化の進行と、都市部や観光業界との人材獲得競争の激化という複合的な要因により地方の介護事業者は厳しい経営環境に置かれています。
地方でも高収入が可能な産業の例~和食ブームがもたらす可能性
一方、地方でも高付加価値を生む産業に従事することで、高い所得を得ることは十分可能です。特に北海道では、農業・漁業・畜産が盛んです。とりわけ近年の和食ブームに伴い水産業が恩恵を受けています。たとえば、水産物の輸出が伸び、漁業関連の所得水準が上昇している地域が存在します。このように、地方の少子高齢化が進む一方で、高付加価値の産業に就けば都市部と遜色ない収入を得ることは可能です。また、テクノロジーの進歩やオンラインを活用した販路拡大など、新たなビジネスチャンスも生まれています。つまり、地方全体を俯瞰すれば何も人口減少の波に押されるだけではありません。潜在力を活かす手段が潜んでいるのです。
今後の課題と持続可能な地域社会を目指して
最後に、地方の少子高齢化と東京一極集中が同時進行する現在、対策としては地域に根ざした雇用創出と若年層の定着化が重要です。さらに、介護や看護などのエッセンシャルワーキング業界への支援も強化しなければなりません。それゆえ、人材育成や待遇改善を進めることが不可欠でしょう。また、和食ブームに象徴されるように、地域資源を生かした産業の伸びしろは大きいです。
そして、収入面で魅力的な職場を提供できれば若者が地方に戻ってくる可能性もあります。加えて、高齢者のケアが必要な地域こそ、医療・福祉の専門職に頼らず、コミュニティ全体で支え合う仕組みを築くことが求められます。したがって、地方が元気を取り戻すには、産業・雇用・福祉の連携が欠かせません。
おわりに
以上のように、東京一極集中の加速が続く一方で、地方の少子高齢化と人材不足はより深刻化しています。しかし、北海道の介護事業者として当社が実感するのは、地方にも新たな可能性が多分に秘められているという事実です。したがって、地域特有の強みと福祉を結びつけ、持続可能な社会を築くための施策を進めることが急務と言えます。今後は、高齢者やその家族にとってより安心して暮らせる環境を整えつつ、地方の産業活性化を同時に図ることで、少子高齢化の課題を打開していく道を模索していきたいのです。