Contents
はじめに:深刻化する「高齢者のカスハラ」その本当の原因とは?
介護現場で働く9割近くが経験するという、利用者からのカスタマーハラスメント(カスハラ)。特に高齢者によるカスハラは、暴言や暴力だけでなく、理不尽な要求となります。介護職員の心身を疲弊させています。
しかし、この問題の本質は、利用者の性格だけに帰結するものではありません。
10年間、介護の最前線に立ってきた私の経験から言えるのは、問題の根底には**「行政の過度な高齢者保護政策」**という、報道では語られない構造的な歪みが存在しています。
そこで、この記事では、高齢者のカスハラがなぜなくならないのか、その根本原因を解説します。さらに、明日から現場で実践できる具体的な対策について述べます。
高齢者カスハラの根本原因は「行政の過保護」にある?
なぜ、一部の高齢者はカスハラ行為に至ってしまうのでしょうか。実は、その引き金は、行政の「何かあればすぐにご相談ください」というメッセージです。この言葉自体は正確です。しかし、一部で誤って解釈され、「行政への通報」が理不尽な要求を通すための武器として使われています。
この「通報」を背景に、事業者は行政指導や監査を恐れて極度に萎縮します。結果的に、職員は心身をすり減らしながら高齢者のカスハラを受け入れざるを得ない状況が生まれています。
高齢者のカスハラを助長する3つの構造的問題
現場で起きている問題は、主に3つの構造的な原因に集約されます。
原因1:「役所に言うぞ」という”脅し”の常態化
一度、利用者や家族から行政に通報が入ると、事業者は事実確認を待たずに「対応」を迫られます。このプレッシャーこそが、本来は毅然と断るべき高齢者のカスハラや過剰要求を容認させてしまう最大の原因です。
原因2:介護保険外サービスの無償強要
報道される暴力行為以上に日常的なのが、契約外サービスの要求です。
- 介護保険では扱えない買い物(たばこや酒)
- 契約時間外の通院付き添い
これらはすべて介護保険の適用外ですが、「福祉だから」という意識から当然のように要求されます。断ると、カスハラに発展したり、「通報」をちらつかされたりするケースが後を絶ちません。
原因3:問題を助長する行政の「ダブルスタンダード」
行政の対応には、大きな矛盾があります。
- 高齢者虐待には厳格に対応:通報があれば即座に調査・指導が入る。
- 事業者へのカスハラは事実上黙認:職員が「善意」で行う無償サービスを問題視せず、見て見ぬふり。
この二重基準が、「事業者は何を言ってもやっても許される」という高齢者側の誤った万能感を育てます。そして、カスハラの土壌となっています。
高齢者のカスハラを無くすための具体的な対策3選
この悪循環を断ち切り、介護職員が安心して働ける環境を作るために、私たちは何をすべきでしょうか。現場目線での具体的な対策を3つ提案します。
対策1:行政は「公平な審判」として機能する
行政は、通報があった際に「事業者=悪」と決めつけてはいけません。まずは客観的な事実確認を徹底すべきです。その上で、高齢者による悪質なカスハラが確認された場合は、通報者側にも毅然と指導を行うべきです。この公平な姿勢が、現場の秩序を守る第一歩となります。
対策2:「できないこと」を明確にする契約と説明
曖昧さがカスハラの温床になります。事業者側は、契約時にサービス内容だけでなく**「提供できないこと」の範囲を具体的に明記**します。そして、利用者と家族双方に丁寧に説明し、合意を得ることが重要です。「善意」の無償サービスは原則行わないことも必要です。必要なサービスには適切な対価が発生する。そんな、当たり前のルールを徹底することが職員自身を守ります。
対策3:専門職としての「拒否権」を確立する
介護は専門職です。理不尽な要求や人格否定の暴言に対しては、職員個人ではなく、事業者が組織として公式に「NO」と拒否できる権利と、それを支える制度が必要です。介護職員が専門家として尊重され、法的に保護される環境こそが、高齢者への質の高いケア提供にも繋がります。
まとめ:高齢者のカスハラ対策は、介護職員を守ることから始まる
本記事では、高齢者のカスハラ問題の根底にある行政の構造的な課題と、その具体的な対策について解説しました。
この問題は、単に「困った高齢者」の話ではありません。行政の過保護な姿勢が、結果として介護現場の疲弊とサービスの質の低下を招いています。これは、介護業界全体の構造問題なのです。
介護職員が専門職として尊重され、安心して働ける環境を整えること。それこそが、巡り巡って高齢者一人ひとりが質の高いケアを受ける権利を守ることに繋がると、私は信じています。