有料の介護付き老人ホームに入るのは贅沢?|家族の悩みと決断のポイント

介護を受ける男性

夫婦介護の限界と「老老介護」の現実

大切な家族の介護。住み慣れた自宅で、自分たちの手で看たいと願う気持ちは、多くの方が抱く自然な感情です。しかし、献身的な介護の裏で、家族の心身には計り知れない負担が積み重なっています。

厚生労働省の調査では、同居家族が介護するケースで、要介護者が65歳以上の場合、介護者も65歳以上の高齢者である割合は実に63.5%にのぼります。さらに、介護する側・される側の双方が75歳以上という「老老介護」のケースも35.7%に達し、過去最高を更新しています。これは、決して特別な状況ではなく、多くの夫婦が直面する現実です。

介護する配偶者自身も高齢で、体力や健康面に不安があり、いつ自分が倒れるか分からないという重圧の中で日々を過ごしています。十分な睡眠や休息が取れず、自分の時間も犠牲にすることは、確実に精神を摩耗させます。経済的な不安も伴い、収入が途絶え、医療費や介護費用が増大するケースも少なくありません。
認知症があると、コミュニケーションの困難さからストレスはさらに増大します。
介護者がうつ状態に陥り、被介護者に対してネガティブな感情を抱いてしまったりする危険性すらあります。

施設入居への罪悪感

「家族を施設に預けるのは可哀想だ」という周囲の目を気にする方も少なくありません。 「最後まで自宅で看るのが愛情だ」という世間体を気にし、有料で介護付きの老人ホームへの入居検討をためらう方もいます。

介護者が抱く葛藤

頭では「専門家の方が良いケアをできる」と理解していても、罪悪感に苛まれるケースもあります。 「自分の手で介護しないのは冷たいのでは」という思いが拭えません。 「お金を払って施設に入れるなんて贅沢ではないか」という思いも拭えません。

介護保険制度の理念

しかし、本当にそうでしょうか? 介護保険制度は、介護を社会全体で支えるために生まれました。 介護が困難になった場合、プロの手に委ねることは、決して恥じることではありません。

罪悪感を抱く必要はない

むしろ、要介護状態になった際にデイサービスや訪問介護など様々なサービスを利用するのと同じです。 在宅介護が限界であれば有料の介護付き老人ホームに入居することに「まったく罪悪感を抱く必要はない」のです。 これは国の制度の理念でもあり、多くの専門家が繰り返し強調している点です。

介護疲れが招く悲劇を防ぐために

介護を苦にした事件が跡を絶たない現実

家族介護による心身の限界を超えてしまうと、痛ましい事件に発展するケースもあります。 いわゆる「介護殺人」や「無理心中」は後を絶ちません。

深刻な統計データ

ある調査によれば、日本全国でこのような介護殺人・心中事件は2012年から2021年までの10年間に少なくとも437件発生しました。 平均すると8日に1件の割合で起きていたことが明らかになりました。

配偶者間の悲劇が最多

注目すべきは、こうした事件の加害者(介護者)と被害者(被介護者)の関係です。 437件のうち約半数にあたる214件は配偶者同士でした。 206件が親子でした。 つまり、高齢の夫婦間の介護が背景となった悲劇が非常に多いのです。

こうした事件の背景には、ほとんどの場合「介護疲れ」や将来への悲観といった要因があると指摘されています。 親族間の介護殺人・心中事件の約8割で主な原因は介護者の心身の疲弊(介護疲れ)であったと認められています。

孤立が招く絶望的な行動

追い詰められるまで誰にも相談できず、孤立無援の状態で介護を抱え込んでしまいます。 その末に、このような絶望的な行動に至ってしまうのです。

限界のサインを見逃さない

大切なのは、もし今、介護の担い手であるあなたが少しでも「しんどい」と感じているならば、その違和感を決して無視しないことです。 「もう限界かも」と感じているならば、その危機感を決して無視しないことです。 介護者自身の疲れや不安を軽視してはいけません。

助けを求めることの重要性

適切に周囲に助けを求めることが重要です。 他の解決策を検討することが重要です。 ご自身と愛する配偶者双方の命と暮らしを守る上で何より重要になります。

「有料の介護付き老人ホーム」という選択肢

ここまで見てきたように、夫婦間の在宅介護には想像以上の負担とリスクが伴います。
だからこそ、有料の介護付き老人ホームという選択肢を前向きに捉えてみてください。
有料の介護付き老人ホームは、介護スタッフが常駐し、日常的な介護サービスを受けられる民間の高齢者施設です。
公的介護保険の枠組みで特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設でもあります。
介護が必要な高齢者が安全かつ快適に生活できる環境が整えられています。

介護付き老人ホームのメリット

有料の介護付き老人ホームで適切なケアを受けることで、介護者・被介護者双方にプラスの効果が期待できます。

介護者の負担軽減とゆとりの確保

24時間付ききりの生活から解放されることで心身に大きなゆとりが生まれます。「施設に入れたら自分はラクになるけれど、本人は寂しいのでは…」と不安に思うかもしれません。しかし、介護する側の生活も取り戻し、精神的なゆとりを持って接することができます。
夫婦の絆を介護疲れや悲壮感で傷つけずに済むはずです。


専門家による質の高いケア

多くの有料の介護付き老人ホームでは、レクリエーションやリハビリが日常的に行われています。「施設に入ると状態が悪化する」というのは誤解です。
むしろ毎日適切なリハビリや刺激を受けることで症状が改善するケースも少なくありません。
また、有料の介護付き老人ホームには経験豊富な介護福祉士や看護師が常勤しています。
認知症ケアに精通したスタッフが対応してくれる施設も多くあります。
胃ろうやたん吸引、褥瘡(床ずれ)対策など、在宅では対応が難しい医療的ケアまでカバーできる施設もあります。
万全の体制で高齢者の生活を支えてくれる安心感は計り知れません。

被介護者の安心感と満足度の向上

施設入居は決して配偶者を「見捨てる」ことではありません。
むしろプロの力を借りてより良い介護環境を整えることに他なりません。
実際、在宅介護を受ける要介護者の中には「家族にこれ以上迷惑をかけたくない」と思って本音を言えない人もいます。
施設に入ったことでスタッフに遠慮なく要望を伝えられるようになります。
かえって本人の満足度が上がったという事例もあります。
罪悪感を抱いているのは家族の側だけです。
当の本人は安心してプロの介護を受けたいと望んでいる場合もあるのです。ぜひ一度、ご夫婦で今後の介護について腹を割って話し合ってみることも大切でしょう。

入居後の夫婦の絆の継続

もちろん、有料の介護付き老人ホームに入居すればすべてをお任せで終わりというわけではありません。入居後も配偶者として定期的に面会に行き、寄り添い続けることはできます。
それがご本人の安心につながります。
施設によっては家族が一緒に参加できるイベントや外出行事を開催している所もあります。
新しい形でのふれあいを持つこともできます。
何より、あなた自身が元気でいることが残された人生を共に穏やかに過ごす前提条件です。
介護は決して一人で抱え込むべきものではありません。

専門家への依頼

日本全国には数多くの介護施設や地域包括支援センター、ケアマネジャーなど、あなたを支えるための社会資源が用意されています。
「自宅で看るのが当たり前」という思い込みや周囲の目によるプレッシャーに縛られすぎないでください。
もっと楽に、もっと幸せになれる道がないかをぜひ模索してみてください。
長年連れ添った大切な夫や妻を思う気持ちがあるからこそ、プロの手を借りる勇気を持つことも愛情の一つの形です。

最後に


有料で介護が付いている老人ホームを利用するという選択肢は、決して後ろ向きな逃げではありません。
ご自身とご家族の人生を守る前向きな決断になり得ます。
罪悪感に押しつぶされそうなときは、「もし自分が倒れてしまったら、この人はどうなるだろう?」と考えてみてください。
あなたとあなたの家族がこれからも笑顔でいられるように、時には周囲の手を借りながら、最良の道を選んでいきましょう。


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